映画「あん」を観ました。
樹木希林さん主演、永瀬正敏さん、内田伽羅さんなど出演者はそれほど多くありません。
“どら春”という、桜のきれいな場所の一角にあるどら焼き屋さんが舞台。
そこの店長が永瀬さん。
あるとき、徳江さんというひとりの老女が訪ねてきます。
求人の貼り紙を見て、ここで働きたいと申し出るのですが、年齢的にも、力仕事も多いこともあり、断られてしまいます。
でも、自分はどら焼きのあん作りにはとても自信がある、一度自分の作ったあんこを食べてほしいとタッパーに入れたあんこを店長に渡します。
そのあんこのおいしさに感動した店長は、その日からどら春のあん作りを徳江さんにお願いし、自分も一緒にあん作りを行います。
徳江さんの作るあんこの入った、リニューアルどら焼きはとてもとても評判を呼び、開店前からお店の前に行列ができるほどになります。
お店の常連の中学生、わかなさん(内田伽羅さん)も徳江さんと仲良くなり、徳江さんも自分の孫のようにかわいがります。
繁盛の日々を過ごしていたのですが、ある時から徳江さんについての噂が流れるようになり、それ以来お客さんが来なくなってしまうのです。
それは、徳江さんはハンセン病の患者であり、隔離施設でずっと暮らしてきたということ。
お客さんが来なくなったのは、自分が原因だと悟り、徳江さんはお店を辞めてしまいます。
徳江さんは、自分の身の上を店長に話すことなく働いていました。
でも、店長も人に明かせない過去を背負いながら生きてきていました。
また、わかなさんも自分の力ではどうにもできない、家庭の悩みを抱えていました。
周囲の噂に負け、徳江さんを守ってやれなかった店長はわかなさんと一緒に徳江さんを訪ねていきます。
徳江さんが日々を過ごしてきた隔離施設、そこでの生活のことを目の当たりにし、店長さんも一歩前に踏み出していく決心をします。
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物語の前半は、徳江さんが店長さんに教えるあん作りがとてもおいしそうで。
煮あがっていく小豆の一粒一粒がまるで生きているみたいに動いています。
徳江さんもそれを愛おしそうに手をかけ、あんが出来上がっていきます。
だんだんと店長さんと徳江さんの距離が近づいていく雰囲気もよいのです。
後半は、ハンセン病の方の生活にも触れられていきます。
ハンセン病については、わたしは勉強不足なので、ここで多くを語ることはできませんが、ずっと隔離されて生活をしなければならなかったこと、徳江さんも施設の中で結婚をしても子供を持つことは許されなかったこと、お墓をつくることもできなかったこと、そんな中でずっと過ごしてきた徳江さんが、自分のやりたいことを最後に叶えるために動き、それは外の世界に出て小さなお店で自分の得意なあん作りをして、店先に立つ、というとても些細なことなのですが、それを叶えた徳江さんの表情がとても美しく見えました。
この映画のサブタイトルは“やり残したことは、ありませんか?”というのですが、徳江さんの表情にこれがすべて込められているような気がしました。
桜の花咲く時期から始まり、次の桜の時期までの物語です。
華やかさはありませんが、何かほっとしたりする、しみじみと素敵な映画でした。